本好きつばきの3ポイント書評

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【書評】もうひとつの屋久島から 世界遺産の森が伝えたいこと 武田 剛

 

小学校5.6年向けの児童書ということになっていますが、大人が読んでも読みごたえのある本です。しかも分かりやすく書かれているのでいいですよ!

 

 

著者はどんな人?

著者の方は元々は新聞社にお勤めだったフリーライターの方です。

北極や南極といった極地を取材をした後、屋久島に魅せられ移住を決意します。

 

何が書いてあるの?

屋久島の自然保護の歴史の本です。

世界自然遺産の登録から、その問題点まで。

 

ポイント1 そこに住むことで見えてくるもの。それを書きたいという想いが熱い。

確かに、短期での滞在では分からないことがたくさんあると思いますが、会社を辞めて移住するなんてすごい決断です!

奥様と娘さんには反対されたようですが、諦めきれずに説得を続け、ついに移住を果たします。

 

ポイント2 屋久島の生活事情がわかる。移住したい人にも面白い。

この本、移住したい人の参考になります。

家族で移住してるので、家を探すことになります。ここで出てくる住宅事情や生活事情が個人的に興味深かったです。

 

例えば、家を探すにしても、せっかく島に移住したのだから、海が見える高台で、しかも周りからは不便でないほどに離れている家がいい!と筆者は探すのですが・・・島内は海の見えないところに固まって家が建っていることが多く、なかなか理想の家は見つかりません。

それには、島ならではの理由があったのです。

屋久島は、外海に面した厳しい気候のため、台風などの強風を避けるように家を建てるのです。

固まっているのは、電線などの都合。ひとつだけ離れた家には電線を新たに敷設せねばならず、コストがかかるのです。それも大手の電力会社ではないため、電信柱は1本50万円(!)が自己負担となるとか。

 

でも、電力については、豊富な水を活かし、なんと100%島内でまかなっているそうです。

 

 屋久島は、九州電力などの大手電力会社から電気の供給を受けず、地元の民間会社「屋久島電工」が発電する珍しい島だ。山中にあるダムに大量の水をたくわえ、その水を下流発電所に勢いよく流し、約六千六百世帯が使うすべての電気を発電している。

 火力や原子力発電所がなくても、水力で電気が作れるのは、日本一をおこる屋久島の降水量のおかげだ。

「もうひとつの屋久島から」より

 

 

 屋久島の降水量はすごいと聞きますが、これだけで電力がまかなえ、会社も独立しているとは!これからの社会のヒントにもなりそうです。

 

ポイント3 屋久島の歴史。環境開発をめぐる構造は現代と同じ。

屋久島は、その素晴らしい品質の杉を巡って、さまざまな利権の絡む島でもありました。島民たちは先祖代々の深い森を守りながら暮らすことを望む一方で、利権に巻き込まれた悲しい歴史もあるのです。

戦国時代に豊臣秀吉の命を受けた島津氏(のちの薩摩藩主)が調査をし、品質の良い杉が大量にあることがわかると、江戸時代を通じて伐採をすることにんなりました。

島には年貢として杉を切ることが課せられ、仕方なく島民たちは杉を切るのです。

そして薩摩藩はそれを安く買いあげ、主に関西方面で人気のあった屋久杉を高く売り、莫大な利益を出し、江戸後期には倒幕の筆頭となるほどに力を付けていくのです。

 

さらに大正から昭和へ、森はどんどん姿を消し、このままではいけないという島民と、生活がかかっているので屋久杉を切らざるをえない島民の間で対立が起こってしまいます。

悲しくなりますね。現在でも開発や原発なんかと何も変わらない構図がそのままです。

 

屋久島の自然をまもる活動は、生活を守りたい人達に気を使いながらも、そして対立して罵倒されたりしながらも地道に活動を続けます。当時の林野庁からは全く相手にされなかったようです。国からは完全に無視を決め込まれます。伐採のしすぎで起こった大規模な土石流さえも、国を相手取った裁判では「伐採との因果関係はない」とされてしまいます。

 

が、世界的に貴重な「植物の垂直分布」というものが京都大学の研究者によって屋久島にあるのが見いだされ、ついに伐採が止まります。もう島の西部にしか大規模な原生林は残っていませんでした。

 

感想

個人的には、生活事情が面白かったです。

水量発電で電力すべてまかなえるなんて…。

雨が多い屋久島ならではの事情かもしれませんが、関連の本を探したくなりました。

 

あと、登山も好きなので、屋久島は行きたいところのひとつです。しかし、トイレや山小屋の運営にもまだまだ問題が多い…。山に携わるひとと、行政のは意識が違うのだと感じました。

 

世界自然遺産に登録されるのも大変です。環境をまもりつつも観光資源とするのは、それなりの仕組みが必要です。規制がある程度厳しくなっても仕方がないかとわたしは思います。

 

 

 

おまけ

児童書って、子どもに分かるように難しい言葉をあまり使わずに、しかも簡潔に内容を書いてくれています。短くさくっと読めます。一方、内容は濃いものが多いです。

穴場(?)です。

わが子の小学校の図書館で借りてます。読み聞かせのボランティアに入っているので、ボランティア枠で借りられるのです(*^-^*)